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<キーワードはビジネスモデル、マーケティング、知財権> |
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多喜義彦氏を講師に招いてスタート
東京・品川インターシティの(株)富士ゼロックス・エピセンターをお借りし、第1回「OACクリマネ・セミナー」が開催されました。
主催はOACの知財権部会からリニューアルした、クリエイティブリスクマネジメント(クリマネ)部会です。当日は台風20号接近により、あいにくの空模様でしたが、30社、60名の方が参加されました。
OACの鈴木清文理事長の挨拶に続いて、システム・インテグレーション(株)代表取締役の多喜義彦(たきよしひこ)氏の講演が始まりました。多喜氏は、学生時代に手掛けた技術開発以来、約40年間にわたり事業・技術開発顧問一筋という異色のキャリアの持ち主です。多喜氏が手掛けてきた、あるいは現在進行形の技術や事業を題材に、リアリティ豊かなお話を披露していただきました。
下請け企業を目覚めさせた最初の開発
多喜氏はまず、東海地方の大手メーカーの三次下請けの部品会社で、アルバイトをしたときのエピソードから語り始めました。その会社で自社製品開発の提案をしたことが、自身をこの道に歩ませたといいます。下請けが大手メーカーの要望を満たす技術を持ち、それを異業界に向けて、消費者が明確に求めている製品づくりに活かす、という多喜氏の提案は、製品化、特許化がスムーズに進みました。また、マーケティング的には、リピートオーダーが必ず得られる仕組みづくりをしました。製品は飛ぶように売れ、今も継続して売られているとのことです。
会社経営者は「何よりも自分たちで値段が自由につけられることがうれしい」といい、それを聞いた多喜氏は、今で言う「ビジネスモデル」という概念を自分なりに確信し、その会社と自身初めての技術顧問契約を結んだとのことです。ここで多喜氏は「業界が変わると値ごろ感が違う」と、興味深いひと言を付け加えました。
OAC会員社のなかには、クライアントからの請負制作への依存度を下げ、自前のコンテンツ開発を目指すところもあります。そのような会員社にとっては、良きヒントになったのではないかと思います。
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安全・環境・コンプラインスへの対応
品質向上、コスト削減、納期短縮という流れは、どの業界にもあると多喜氏は言います。価格破壊は消費者メリットではありますが、一方で、中堅、小規模の請負型企業に負の圧力となっていることも事実です。
この問題に多喜氏は、様々な業界・組織で技術顧問として取り組んでいます。具体的な事例として、ある生活協同組合での技術開発を取り上げました。数年前の食肉偽造事件を予測するかのようなタイミングで、食品のトレーサビリティ事業を始めたのです。そのコストは商品価格に反映されましたが、調査によれば「安全なモノを買う人」「安いモノを買う人」「ケースバイケースの人」の割合は、ほぼ3分の1ずつとのことで、手ごたえを感じたといいます。食肉偽造事件発覚時には、いち早く該当商品の回収、購入者への代金払い戻しをし、ユーザーの支持を深められたそうです。
現在、多喜氏は、このビジネスモデルに配達事業を組み入れようとしています。地域の高齢化に、過疎化による大手スーパーの撤退。しかし高齢化・過疎化は、全国的に見れば普通で、様々なモノやサービスを求める人々が適当に分散している時代であるととらえ、それに対応していこうという考え方を示しました。ネットなどを通じ“誰が何を欲しがっているか”を把握して商品を届け、廃油や残飯、商品パッケージは回収します。回収した廃油は配送車の燃料に、残飯はバイオマスに、商品パッケージなどはリサイクルといった、ITと環境を結びつけた仕組みです。そこにはいくつもの知財が組み込まれているとのことで、事業の価値と独自性を維持することに役立っています。また、どの地域の事業者でも導入できる道筋も考えているとのことです。
企業活動において、製造、販売はもちろん、人事や教育、広告やPRなどでも安全・環境・コンプライアンスの視点は欠かせなくなっています。さらにITや知財を絡めたお話に、多くの参加者が熱心にメモをとっていました。
Field Alliance というビジネスモデルの提案
講演の終盤は、Field Alliance (フィールドアライアンス)というビジネスモデルについてのお話です。企業それぞれが持つ事業フィールドとそれぞれの顧客を持ち寄り、競合しない形で共有し、顧客の求めるもの、喜ぶことを提案するという事業開発です。具体的なケースとして、岡山や広島に展開する百貨店と、大阪の米国系テーマパークの Field Alliance が紹介されました。仕組みは簡単で、百貨店はキャラクターグッズをテーマパークへ卸し、テーマパークはクーポンチケットを百貨店の商品に付けるというものです。休日に出かけるという共通した顧客の行動パターン、エリアのほどよい距離感といったマーケティングも功を奏したのでしょう。この事業は大々的なPRがなくとも、お互いの売上向上に貢献しているとのことです。
多喜氏の唱える Field Alliance は、主従のない関係を構築し、競争や競合の無駄を排除して互いにバリューを高めることです。制作会社同士、あるいは関連事業者やクライアント企業との新しいクリエイティブに応用できる、そんな期待感で聞き入る参加者も目立ちました。
※「Field Alliance」は、システム・インテグレーション(株)の登録商標です。
百発百中の「勝手に企画」について
締めくくりは、余談も交えたアラカルト。多喜氏には「営業」という言葉は無く、それらはすべて「提案」であると言います。締めくくりの講演と、終了後の質疑応答を箇条書きにまとめてみます。
1. 購買担当者には会わず、開発担当者と接する
2. 企画書は無償。無断採用は公証で防止できる
3. できる限り「知財」を組み入れる
4. 止める提案も開発である
5. 5社と5年付き合うと、ネットワークが急拡大する
その後、主催者であるOACクリエイティブリスクマネジメント(クリマネ)部会の福田謙三部会長より閉会の挨拶があり、これをもって第1回「OACクリマネ・セミナー」は終了しました。
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