2018年4月1日株式会社トヨタマーケティングジャパン(TMJ)は、トヨタに統合された。
TMJは2009年10月、業務の専門性と機動性を高めるため、トヨタから独立したマーケティング専門会社として設立。従来は車種ごとに分かれていた広告キャンペーンを、お客様から見た際のトヨタの魅力として統合した「TOYOTOWN」や、若者の社会貢献意識の高まりを捉えた「アクアソーシャルフェス」など、時流に合せて変化するお客様の意識に寄り添ったマーケティングを実施し、一定の成果を挙げてきた。
しかしながら、両社を取り巻く環境が急速に変化しており、マーケティング機能単独ではなく、商品企画や販売店ビジネスの企画・サポート機能が一体となって、即断・即決・即実行しなければ、世の中の変化に対応できないと判断。TMJをトヨタの国内事業・商品企画機能と統合することで、商品企画からプロモーション、販売店活動まで一貫したマーケティングを、機動的に企画・実施していく。また、近い将来のコネクティッド社会への対応や、モビリティサービスへの事業構造変革のスピードを高めていく。
(TOYOTA News Releaseより)
今回はその実態を、元トヨタマーケティングジャパン取締役で、現在(株)デルフィス常務取締役の土橋氏にお話しをいただいた。
勝つか負けるかではなく、生きるか死ぬか!異業種との競争
「もはや我々のライバルは自動車メーカーだけではない。アップルやグーグル、フェースブックなども強力なライバル。ソフトウエアの技術が非常に重要になる」
これは2018年1月ラスベガスのテクノロジーイベント「CES 2018」の開催に先立ち、プレスカンファレンスを開催。豊田章男社長が壇上に立ってプレゼンテーションしたのが、トヨタの新しい電気自動車(EV)である「e-Palette Concept」。その冒頭で述べた言葉。
若者の自動車離れが叫ばれる時代、今後の自動車のあり方を真剣に考えていかなければ我々は生き残れないと感じている。アップルやグーグルなど、特に若者の身近な存在であるIT系企業は、AI分野でも先行しており、自動運転化技術などにも積極的に参入してきているし、持っている情報量を活かした新しい自動車文化を創出しようともしている。
自動車製造・販売業からモビリティサービス業へ
トヨタは、そんな危機感から製造・販売からモビリティサービスへ向けて動き出しました。
スピード・効率最優先の組織へ
土橋氏は言います。あるとき、外国のベンチャー企業の若者がやってきてトヨタのRAV4を電気自動車に改良したいと言ってきた。開発担当に確認すると、おそらく半年はかかるだろうという。ところが、2週間後に彼らから連絡があり、出来たという。そのスピードに驚いたわけです。
また、中国の企業の方が来られて、ある提案をしてくれた。彼らは、『結果はいつわかるでしょうか』と聞くので、1週間はかかると返すと、『これだけ、役員の方がいて、それでも1週間かかるんですか?』と返してきた。
この辺りも、トヨタマーケティングジャパンをトヨタ本体と統合した理由のひとつです。
決断を早く、良いものはすぐ実行に移せる組織に変革したいと思っています。
お客様の購買行動が大きく変化
以前は車の購入に複数の店舗を回って、確認していたはずです。
ところが2013年の調査だと、自動車購入時の店舗訪問数が
- 1店舗のみ 61%
- 2店舗 21%
- 3店舗 11%
という結果となった。1店舗のみが圧倒的であることに衝撃を受けた。
現在はスマホで調べつくしてから店舗を訪問。これだと思うものを最終的に確認に来ている傾向である。なお、スマホでの検討期間は2ヶ月との調査結果もある。
こうなると購入時にもらうカタログって、どんな存在であるべきかも考えなければいけない。
メディア環境の変化
1日のスマホなどの接触時間がテレビの視聴時間を超え、2017年はテレビ39%に対し、
スマホ・携帯・PC・タブレットの合計は、46.2%。
また商品購入のキッカケとして、ブログやSNSの比率が50%弱の数値となっています。
動画広告にしても、再生回数はほぼ同数のものがあるとして、そこに『いいね!』をしてくれる人の数で差が出ている場合があります。話題になり、感動など何かがなければ『いいね!』数は伸びない。
以前は、好感度が高く、好きになってもらうための広告を創ってきたが、最近ではお客様の推奨率が高く、誰かに奨めたくなるものが大事になってきている。
オウンドメディア=企業ホームページに関していうと、クルマ購入者の60%はサイトを訪問。
トヨタの例だと、1日約31万人来場。1ヶ月で922万人来場しています。
またLINEの会員は2,536万人となっています。大きなメディアです。
そのため、日常からお客さまとつながって、更にファンになっていただき、推奨者になっていただけるような仕組みを常に考えています。
広告に携わる人に向けて
広告業界は働き方改革が叫ばれていますが、本気に考えないといけない時期です。
昔は花形部署なんてもてはやされた宣伝部も、いまでは志願する人は減っています。
また、各企業も広告制作にあたっている企業も女性の割合が高まっているはずです。
この現実にしっかり向き合ってほしいと思います。
また、宣伝部長が困っていることを紹介しますと以下の点をあげられた。
- 増大する広告効果の説明責任
株主・企業トップ・予算を預かっている事業部と、これで広告効果があがると説明するのが大変。
- 日本アドバタイザーズ協会でのアンケートの衝撃
テレビ媒体の利用をやめてはどうかと意見があがっている企業が、36%あった。
若者のテレビ離れと先ほど触れたスマホやSNSの影響が大きい。
しかし、視聴率データがもっと詳細に把握できるようなら、出稿意欲は強まるかと
尋ねたところ、非常に強まる23%、やや強まる58%と、効果測定が出来ればという意見が多かった。
- 広告制作費は高すぎないかと経理から言われる
このカタログで一軒家が建つ!等々。ここでもそれに見合った効果はあるのかと問われている。
- 企業ブランドが向上すると、商品は売れるのか?
これは企業であるトヨタを好きになると、トヨタ車購入の確率は10倍になると試算している。例えば3%企業ブランドが向上すると、6万台の増販効果が期待できる。
- デジタル媒体が増え、今まで以上に1キャンペーンの制作素材数も2倍に増加
掛けられる人員も限られており、仕事量も増加している。このあたりの仕事量を軽減できる提案も制作会社の方には行ってほしい。
- アドフラウド (Ad Fraud)対策
アドフラウド (Ad Fraud)とは、botなどを使い無効な インプレッションやクリックを行い、 広告費用に対する成約件数や 広告効果などを不正に水増しする不正広告。
企業ブランドを大切にしつつ、費用対効果を気に掛ける企業としては、不正を行った企業とは言われたくはない。
さて、土橋さんはいままで携わった広告で学んだことも語りました。
最後に土橋さんは、今後は以下の点に目を向けていくべきだと語ります。
- ◇ ベンチャー精神を取り戻せ
- ◇ 柔軟性・適応力を身に付けよう
- ◇ チャレンジする気持ちを忘れるな
Start Your Impossible
そして、2017年10月に発表されたグローバル企業チャレンジ「Start Your Impossible」を紹介。詳しくは、下記をご参照ください。
動画はこちら
100名という多くの方の関心を呼んだ今回のセミナー。土橋さんの熱い想いが伝わってきました。これからこそチャレンジ精神を忘れずに日々邁進していくことが必要ですね。
土橋さん、ありがとうございました。
|