経営部会オープンセミナーの開催報告 「デザイン事故を未然に防ぐ」勉強会 |
|
講師 |
: |
(株)博報堂プロダクツ 取締役執行役員 CM制作事業本部長 川嵜 達也氏 |
開催日 |
: |
2015年11月17日(火)18時〜19時30分 |
会場 |
: |
銀座ユニーク |
参加者数 |
: |
経営部会メンバーほか81名 |
本日は経営部会メンバーに若干名の参加者を想定していたが、申込を開始して参加者が大幅に増え、会場を新たに設定し直すほど関心が高かった様子。
講師の川嵜さんは、博報堂本体でデザイナーとして活躍したのち、博報堂プロダクツにて企画制作本部長などを歴任し、デザイン事故に関しても自ら経験したことをもとに、その対策に関して社内でも徹底化を図り今日に至ります。今回はその対策に関することを中心に、語っていただきました。
川嵜さんは冒頭、デザイン事故で暗澹たる気分で迎えたクリスマスや正月の経験談からスタート。提出はしなかったけれど、辞表まで書いたこともあったそうです。そんな川嵜さんが、「自分で感じた、また経験した事故に基づいて対策を含めお話していきますが、聞いてすぐ明日から事故は起きなくなる!というものではありません。当たり前のことが多いかもしれません。また、皆さん各社で抱える仕事内容や規模などで対応策はそれぞれですので今日聞いて感じることがあれば、それぞれの会社でカスタマイズして今後の事故を未然に防ぐ対策としていただければと思います」
自分で考え、自分で感じる、危ないと思う心が危険予知」
これが理想だけれど、難しい。
では、なぜ難しいのか?(リスクが高まる要因)
- ① 制作日程の短縮傾向
- ② 業務の複雑化
(WEBとの連動、デジタルフロー化など)
- ③ 人材育成上の課題
- ④ セキュリティ、コンプライアンスの厳格化
その仕組みを考えるにあたって、事故発生の主な発生要因(パターン)を見ていきましょう。
-
① 作業ルールの逸脱、事故対策の減退
(校正確認、データ取扱い、その他)
- ② 指示内容の未確認
- ③ 作業手順の理解不足
- ④ 校正原本の不十分な管理
(経時的な変更管理、複数の発信元情報の一元化、共有管理)
- ⑤ 発生事故・トラブルの他人事化
*プライスカードの値段間違えを起こさないように、校正を2度するルールを作成したが守られていなかった。
ルールを作ってもそれが行われなければ、何もならない。
ここで川嵜さんは東海村臨界事故の際に、作業員の方が本来の手順とは違う、ステンレス製のバケツを使用していたことをあげました。まさかのことも起こり得ると。
そこで博報堂プロダクツでは、
-
① ルール
・標準的な手順書の作成、配布。
・案件や組織に応じた事故防止の策定。
-
② 組織
ミス・事故撲滅委員会を設置。
担当者を決めることが大事。原因を他者のせいにしない「自分事化」が必要。
また、マネージャーの直接関与が不可欠。
-
-
③ 教育
- ◇ 事故、ヒヤリハットの共有。
部署定例会、チーム会、ミス・事故撲滅委員会等を通しての共有を基本とし、事故発生時には必要に応じて会議体を招集。
- ◇ 手順、注意事項のアナウンス。
マニュアルの作成・配布、メール等での注意喚起。
- ◇ セミナーの実施。
社内コンプライアンス部門、外部専門機関によるセミナーを実施。
- ◇ 事故報告書の作成。
事故発生時の報告書と対策案は必ず当事者に考えさせ作らせる。トップが関与して徹底的に完成度を追求する。
*誤字脱字のある事故報告書はありえない。また「今後、周知徹底します」という言い方をしてくるケースがあるが、周知徹底は当たり前で、具体性を持たせて来ない場合は、再度報告書のやり直しをさせる。
事故報告書チェックのポイントは以下の通り
-
・事実を報告しているか?
- ・原因を具体的にとらえているか?
- ・対策内容は具体的かつ効果的か?
- ・対策実施者や責任者の設定は明確か?
- ・継続維持の仕組みができているか?
(ルール整備が充実することで生じる問題)
作業がマニュアル化して、新しい局面に対応できなくなる。
ルールに頼らず、自分で考え応用できる人材育成が必要である。
-
④ 工程
- ◇ 制作データの作業管理ガイドラインの作成。
標準品質とリスク回避を目的とした作業手順の設定とデータ取扱いのマニュアル。
- ◇ 個別案件ごとの工程設計とチェックフローの作成。
個々の案件の特殊事情に対応した工程設計とリスク回避の対策。
-
⑤ 運用
- ・ルールを守り続ける。牽制、検証が重要。
- ・ルールをドキュメント化して継承。
→担当者の異動、組織改編に対応。
- ・事故当事者には初回は寛容に。同じ失敗、隠蔽には厳しく。
- ・正当なリスクヘッジを検討(リスクの分散、共有)。
- ・対策を講じるために「直接原因」「間接原因」を分析。
直接原因は直接的な要因。間接原因は、直接原因を誘発または発見できなかった背景を含む要因。これらを分析し、類似事例を共有し対策を講じる。
- ○ 協力期間に対して
- ・協力機関に工程内容の共有を依頼し、作業フローを理解する。
- ・協力機関に作業マニュアルがない場合は作成を依頼し共有する。
- ・工程におけるリスクの洗い出しを行ない、あらかじめ事故防止の対策を講じる。
- ・各社に経験値の蓄積を促す。
- ○ 権利侵害について
- ・「世の中の殆どのモノ、コトには他者の権利がある」という意識の浸透、定着を図る。(そのためには常日頃からセミナーの実施などコンプライアンス教育を進める必要がある)。
- ・権利侵害の有無の確認を作業工程の中に入れる。企画提案前の段階でチェックや確認を必ず行なう。
- ・チェックの精度を高めるために、なるべく大人数で協業者や発注者も巻き込んで行なう。
- ・権利侵害の懸念がある場合は内外の専門家に相談する。
- ○ 情報セキュリティについて
情報セキュリティ認証の仕組みが、ミス・事故の防止に役立つ。
- □情報資産の洗い出し
- ↓
- □機密性、可用性、完全性の格付け
- ↓
- □リスクの把握・検討
- ↓
- □リスク対策
- ↓
- □ルールの設定
- ↓
- □運用状況の把握・検討
- ↓
- □監査の実施
- ↓
- □改善策の考案
一朝一夕で全てが整うわけではなく、長期間の取り組みが必要。
最後に川嵜さんから、「これは私の経験と、そしてまた博報堂プロダクツでの取組みですので各々の会社に応じた仕組みづくりを行っていただければよいと思う。そして、事故は活かして財産に。(同じ事故は再び起こさない)」と締めくくられました。
|